なぜ、人民元安が進んだ 中国は綱渡りの元安政策

トランプ大統領が8月1日に対中関税第4弾発動のツイートをして以来、世界株安化が進んだが、それに輪をかけたのが8月5日の中国人民元安だ。なぜ、元安に至ったかを時間を追って整理してみた。

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マーケットの予測を裏切る人民銀の発表

元安の直接の引き金は、5日朝の中国人民銀行(中央銀行)の発表だった。人民銀行は、毎日午前9時15分(日本時間10時15分)に人民元の売買基準となる為替レート「基準値(中間値)」を発表する。その日の変動を基準値の上下2%の範囲で認めている。

5日の発表は、1ドル=6.9225元だった。前週末の基準値(6.8996元)に比べ0.0229元の元安・ドル高の設定で、基準値としては昨年12月上旬以来、約8カ月ぶりの安値だった(日経新聞)。

8月のドル・人民元レートの推移。5日に大きく元安に 出所=XE

わずかコンマ2ケタの元安、率にすると0.3%の元安設定だが、人民銀行はこれまで、元安の行き過ぎを避けるため7元を突破しないようにコントロールしてきた。相場は7元寸前なのだから、その背中を押すようなことはしないと予測されていた。

その予測を裏切るような基準値設定に、マーケットは、人民銀行が一層の元安を容認するサインだと受け止めた。米国が中国に第4弾の追加関税を実施する方針を表明したばかりだったので、中国が輸出で有利になるよう元安に走るのはありうることでもあった。

11年ぶりの元安水準

その結果、5日の上海外国為替市場は、1ドル=7元を突破、2008年5月以来、11年ぶりの安値になった(日経新聞)。終値は7.05元だった。

人民銀行にとって7元はすでに防衛ラインではなくなったようだ。中国政府の中国国際放送が5日に流した記事は、こう伝えている。
「中国人民銀行は、記者の質問に対して、「一国主義や貿易保護主義、追加関税などの影響で、人民元はドルに対して7元台まで値下がりしたが、対通貨バスケットのレートは引き続き安定し勢いを保っている。これはマーケットの需給や国際レートの変動の現れである」と答えました。」

2015年のチャイナショックは避けたい

ただ、中国も行き過ぎた円安は避けたいはず。2015年の記憶があるからだ。この時も夏だった。政府のコントロールが及ばない香港市場で元安が進み、人民銀行は、8月11日に市場実勢をより反映させるとして、1.9%幅の実質切り下げを行った。官製相場を脱し、「為替自由化に向けた措置」との人民銀行の説明にIMFも歓迎をコメントした(Kobaちゃんの硬派ニュース)。

しかし、この切り下げは中国から膨大な資本流出を招いた。ブルームバーグの集計によると、2015年の流出額は1兆ドルと14年の7倍余りに達した(産経新聞)。

人民元を持っていたくないという中国国民が人民元売りドル買いを進めたことと、外資企業が中国投資を控えたためのようだ(同上産経新聞)。人民銀行は、投資家の資本逃避を食い止めようとして、ドル売り、人民元で為替介入したため、外貨準備高は約1兆ドル減少した(ウォールストリート・ジャーナル)。

また、株式市場は、切り下げを中国の景気減速のシグナルと受け止め、リスク回避の動きが強まり、米ダウは一時、年初来高値から15%超下落、日経平均も年初来高値からの調整幅は一時、20%近くに及んだ。

人民銀行は、2015年の教訓を踏まえ、資本規制を整備したことから、過去のような資本流出はそれほど起こらないと自信を持っているとの見方もある(同上ウォールストリート・ジャーナル)。しかし、元安が、貿易には有利でも、資本流出や世界株安を招きかねない諸刃の剣であることは百も承知しているだろう。

人民銀行は、7日の基準値を6.9996元と6日よりもさらに元安へ進めた。しかし、辛うじて7元には乗せなかった。

中国が追い詰められた証拠か

中国は、恐らく新しい防衛ラインを探っているのだろう。米中貿易戦争を耐え抜くには、できるだけ元安に持っていきたい、しかし、資本流出を招くレベルには踏み込みたくない。綱渡りが続くのではないか。

しかし、そんな綱渡りに成功しても、得られる代価は元安数%程度だろう。日銀の異次元緩和で1ドル=80円から110円へと円安に戻した効果に比べたらずいぶんわずかだ。それだけでも欲しいというのは、中国がかなり追い詰められているということだろうか。

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