「赤信号」の金正恩に残された選択肢

米朝交渉は今後どうなるのか。ハノイで2月27~28日に行われた米朝首脳会談が決裂して1週間余り。今後の両国の関係は、北朝鮮の行動にかかっていそうだ。龍谷大学の李相哲教授は、「北朝鮮が打つ手は、二つしかないのではないか。米国の要求を全面的に受け入れて本当に非核化に向けて歩みだすか、米国と再び対立するかだ」と語る(読売新聞)。

【選択肢1】 再び強硬策に戻る

気になるのが、使用していなかったミサイル、核施設を復旧させる動きがあること。

施設の復旧作業を進めているのは北朝鮮北西部にある東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場だ。地図を見ると黄海に面し中朝国境に近い。

東倉里では、液体燃料ロケットのエンジン発射実験や衛星の打ち上げが行われており、北朝鮮はこれまで解体を進めていると説明していた。北朝鮮分析サイト「38ノース」と米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)が、相次いで復旧の疑いを指摘した(ウォールストリート・ジャーナル)。

また、平壌(ピョンヤン)山陰洞ミサイル総合研究施設でも動きがある。韓国国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長が「物資運送用車両の活動が確認され、事実上ミサイルに関連する活動をしている」と国会の委員懇談会で明らかにしたという。

山陰洞の施設は、米本土を攻撃できるICBM級「火星15」などを生産した軍事施設だ。 中央日報が7日の記事で伝えている。

首脳会談で物別れしたためミサイル発射実験を再開しようとしているのか、それとも別の理由なのかがポイントだが、東倉里の復旧作業は、衛星写真が撮影された3月2日以前の2週間に行われており、会談前からの動きらしい。

トランプ大統領の反応は、「もし本当にそうなら、とても残念だ。金正恩朝鮮労働党委員長に非常に失望するだろう」と述べている(東京新聞)。

復旧作業の意図はまだはっきりしていない。もともと東倉里の発射場は、昨年6月、シンガポールで行われた米朝首脳会談後、エンジン燃焼実験台など一部施設の解体が行われていた。そこで、こんな推測も出ている。

ハノイ会談の成功を見越して、施設をキチンと仕立て直したうえで破壊すれば、世界に破壊を強くアピールできる。東倉里をそんなショーの舞台とするつもりで復旧させていたのではないか。

施設の復旧作業の意図はいずれわかってくるだろうが、強硬策に戻る可能性は小さいのではないか。中国に強く反対されるだろうし、韓国・文政権も南北融和の姿勢は取れなくなる。制裁緩和は遠のいて国内の不満は高まる。ミサイル発射、核実験を繰り返した2017年の時とは情勢が変わった。

【選択肢2】米国の要求を受け入れる

今回の首脳会談で北朝鮮側が制裁緩和の代わりに出した条件は寧辺(ヨンビョン)の核施設廃棄だったが、米国はその程度では満足しなかった。トランプ大統領が譲歩してしまうのではないかと会談前に懸念されていたし、正恩氏もそれに期待していたのだろうが、トランプ大統領はまともな決定を下した。

トランプ大統領は、会談後の記者会見で「我々はそれ(寧辺核施設)以上をしなければならなかった」と語り、北朝鮮の李容浩(イ・ヨンホ)外相も会談決裂後の1日深夜の記者会見で「米国は寧辺以外にもう1カ所(非核化)しなければならないと最後まで主張した」と明らかにした(中央日報)。

ちなみに、米国が要求したのは寧辺に隣接する分江(プンガン)地区の地下高濃縮ウラン(HEU)施設の廃棄だとの報道もあるが(同上中央日報)、韓国政府は公式の場では、「わからない」と答え、米国と十分に情報を共有できていないと野党から批判を浴びている。

正恩氏は部分的な非核化で制裁緩和を勝ち取るつもりだった。しかし、その計画が水泡に帰したいま「北朝鮮としては突破する道が見えない」と韓国の元外交部韓半島平和交渉本部長、黄浚局(ファン・ジュングク)氏は判定する。黄氏が見るに、北朝鮮は核を保有することで独特の体制を維持できたのだが、「今回の首脳会談でその戦線に赤信号がついた」と語る(中央日報)。

寧辺以外の新たな廃棄を拒めば制裁緩和されないことが今回の首脳会談ではっきりした。強硬策を選択しないならば、残される選択肢は、寧辺プラスαの廃棄を認めることだ。それは軍の反発を招いて正恩氏の権力基盤を揺るがすかもしれない。プラスαのαが、すべてのミサイル、核施設ではないかとの疑念も深めることだろう。

パキスタンは核保有クラブに所属していないのに現在、核弾頭を140~150発持っている不思議な国だ。1998年に初の核実験を実施し、米国は制裁を科したが、米国が主導するテロとの戦いにパキスタンが協力したことで、2001年に制裁解除している(同上ウォールストリート・ジャーナル)。

正恩氏はパキスタンを見習って、対米戦略を見直すほど時間的な余裕がなさそうだ。やはり赤信号か。正恩氏にとっては気の進まない選択肢だが、制裁緩和を得るためにプラスαの施設廃棄を認める道-それも最低限のα-を探るのではないか。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする