正恩が嫌がる「リビア方式」を突き付け、米朝首脳会談は決裂

ベトナム・ハノイで先月開かれた米朝首脳会談が決裂した理由をロイターが明らかにしてくれた。会談2日目の2月28日にトランプ米大統領が金正恩氏に一片の文書を渡したが、その文書は核兵器と核燃料を米国に引き渡すよう要求していた。ロイターはその文書の写しを入手したようだ。

核兵器の米国への引き渡しは、「リビア方式」と呼ばれる核兵器廃棄のアプローチである。過去にリビアがこれに応じたが、その後2011年、内戦をきっかけにリビアはNATOに攻撃され、独裁者・カダフィは反乱に遭い殺害された。

記事によると、北朝鮮に対する核兵器引き渡しのアイデアは2004年に現在大統領補佐官のボルトンが最初に提案したもので、昨年、補佐官に任命されたときに同じ提案を復活させた。

しかし、金王朝崩壊への末路が見えてしまいそうなリビア方式は北朝鮮にとっては受け入れがたい。これまで何度も拒否してきた。昨年、北朝鮮の高官たちは、ボルトン案は、馬鹿げていると非難し、カダフィに降りかかった悲惨な運命に言及した。

今回、文書を渡すことによって、「非核化」が何を意味するかをトランプが初めて直接に正恩に伝えたことになるという。北朝鮮は、「非核化」の意味を朝鮮半島の非核化-そこには在韓米軍の撤退も含意されていそうだが-と捉え、自国の非核化には中途半端な姿勢を取り続けているが、これを否定し「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」であることを正恩につきつけた。

文書はさらに、北朝鮮の核施設、生物・化学戦計画、弾道ミサイルと関連施設の完全廃棄を要求しているほか、米国と国際的な検査官が核プログラムへの接近を認め、すべての核プログラムに携わっていた科学者、技術者を商業活動に移すよう求めている。

北朝鮮問題の専門家は、文書の要求が実現する可能性はないと見る。スティムソン・センターのジェニー・タウン(Jeny Town)は、「要求内容はボルトンが当初から望んでいたものだが、実現しないのははっきりしている。もし米国が交渉に真剣に取り組んでいるならば、選択できるアプローチでないことは学んでいるはずだ。それを持ち出すのは成功に見込みがない。きちんと学習しているように見えない」と語る。

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腰が定まらないトランプ

トランプは昨年5月、シンガポールでの初の米朝首脳会談を前に、「リビア方式は求めない」と語り、会談を取りやめようとした正恩を交渉の場に引き出した(BBC)。

トランプが前言を翻すのは珍しくないかもしれないが、2月の会談でリビア方式を文書にしてまで持ち出したのは、どういうことなのだろう。

2月の首脳会談で強硬な姿勢を取る一方で、米財務省が3月21日発表した北朝鮮に対する追加制裁について、トランプは翌22日に、「撤回するように命じた」とツイッターに投稿している(朝日新聞)。

いまひとつ方向性が定まってない印象だが、核の完全廃棄要求の旗は降ろさないが、決定的対立は避けたいというのがトランプの思いなのだろうか。

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