韓国から米軍撤退=朝鮮半島ほったらかしを心配する米議会

「在韓米軍撤退」という刺激的な文字をネットニュースで最近よく見かける。本当に撤退なんてあるのだろうか--少なくとも米議会はトランプ大統領が近く開催される米朝首脳会談で、在韓米軍の縮小、撤退を持ち出すのではないかと疑っている。

撤退、ないしは縮小の疑いに信ぴょう性を与えていたのが、在韓米軍の駐留費負担をめぐる米韓の軋轢だ。しかし、先ほどCNNが米韓で基本合意したとのニュースを流した。撤退、縮小観測はこれで少し静まるだろうが、アジアの勢力図を塗り替えるような政策変更話がホットになった背景を整理しておこう。

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米議会がトランプを牽制

まず、米議会の動きから。
「米下院の超党派議員8人は1月30日に、在韓米軍の縮小を事実上禁止することを定めた「米韓同盟支援法案」を提出した」(産経新聞)。

法案は、米軍をこう位置づけているという。
「条約に基づく同盟を維持し、紛争抑止や平和と安全の維持のため米軍をアジアに前方展開することは米国の国益に資する」と強調」(同上)

法案を提出した議員のうちのひとりである民主党のマリノウスキー下院議員は「記者団に対し「60年以上も戦争を防いできた在韓米軍を放棄することは無謀だ。アメリカ軍が韓国を去らないことを首脳会談の前に確認することが重要だ」と述べた」という(NHK)。撤退の可能性を警戒したのだ。

駐留費引き上げで韓国ともめる

米議会が警戒するのも無理はない。トランプ大統領は就任前から、NATOは時代遅れであり、日本、韓国は米国に頼らず自国で防衛するべきと述べ、日本と韓国に核武装を勧めた。世界の警察官でいるのは負担が大きいので孤立主義を志向してきた。

大統領就任後も、2018年6月の北朝鮮・金正恩委員長との会談の直後に、「いつか米国の兵士を(韓国から)撤収することを望む」と語り、米韓合同軍事演習についても「途方もなく高価なウォーゲーム」と述べたことがある。

そして、米韓の間では、2018年末に期限切れとなった米軍の駐留費協定の更新が年を越してもめていた。更新期限は4月15日で、「協議に詳しい韓国の当局者1人によると、期限までに合意に至る見込みは薄そうだ」と合意の見通しは厳しかった(ブルームバーグ)。

こうした米韓の安全保障をめぐるぎくしゃくした現状に加え、米軍のシリアからの撤退の決定や同盟国との関係を重視し、大統領を牽制してきたマティス国防長官の辞任など、トランプ大統領の孤立主義に勢いがつきそうな状況にある。

このため、トランプ大統領が米朝首脳会談で、北朝鮮から非核化に向けた具体的な措置を引き出すために、トランプ大統領が在韓米軍の撤退を交渉の材料にするのではないかという懸念が消えていなかった。

撤退、縮小疑惑がくすぶる中、トランプ大統領自身は、米CBSテレビとの3日のインタビューで、在韓米軍の撤収について「そうした計画はない。これまで議論したことすらない」と現時点では検討していないとの立場を一応、はっきりさせている(日経新聞)。

しかし、その一方で、トランプ氏は「いつかそうするだろう。駐留にとてもコストがかかっている」とも述べていた(同上)。

トランプ大統領にもこだわりがあるようだが、中国への牽制にもなる在韓米軍の撤退を望む一方で、中国のハイテク覇権の挑戦を妨げる政策を採り、南シナ海進出には航行の自由作戦を続行させているのはちぐはぐだ。孤立主義と力による外交が並存している。

また、米軍を撤退させた後の朝鮮半島はほったらかしにするのだろうか。米国は不利になるだろうから、そういうわけにはいかないと思うが、撤退後のことをきちんと考えているようにみえない。

韓国も、北朝鮮との統一にだいぶ傾いているように見えるが、北朝鮮が大歓迎する在韓米軍の撤退を文政権が進めるには早すぎるだろう。国民総スカンとまでは行かずとも、過半スカンぐらいには行くのではないか。

在韓米軍の撤退、縮小は時折蒸し返されるが、実現するのはまだ先--というのがメインシナリオだろうか。