コロナへの経済特効薬、大増発の国債とどう付き合うか

 新型コロナの感染拡大を防ぐための都市封鎖、行動自粛は、世界各国の経済に深刻なダメージを与え、吹き飛んだ稼ぎを修復するには、前例のない巨額な国債発行に頼らざるを得なくなった。

 日本も国民全員に一人当たり10万円給付などを盛り込んだ、総額25兆6914億円の第1次補正予算が成立したが、その財源はすべて国債で賄われる(財務省)。

 このため、2020年度の国債発行額は58兆2476億円に膨らんだ。下図の通り、リーマン・ショック翌年の2009(平成21)年度の52兆円を上回る数字となった。しかし、現在、政府が策定中の第2次補正予算なども加わるので、国債増発はこれで終わりではない。いったい、どれぐらいになるのだろう。

(出所)財務省 発行額の単位は「兆円」

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国債発行、90兆円規模か

 2次補正予算は、家賃支払いが困難な中小企業や生活の苦しい学生などに向けた支援策を盛り込む。5月27日をめどに閣議決定し、6月17日までの今国会中の成立を目指す(日経新聞)。
 

 その規模だが、自民党内には財政支出を5兆~10兆円とする案が浮上しているという(時事通信)。予想される経済の落ち込み幅との見合いからは、1次補正と合わせても足りないだろう。
 

 これに税収不足が加わる。2020年度本予算は、総額102兆6580億円で、そのうち63兆5130億円の税収・印紙収入で賄うことになっていたが、その3分の1の約21兆円が入ってこないとの試算もある(島澤諭氏)(YAHOO!ニュース)。穴埋めには国債発行しかない。
 

 こうして考えていくと、現時点で確定している国債発行額58兆2476億円にさらに20兆円、30兆円単位の上乗せがありそうだ。第2波の感染拡大や経済へのダメージの拡大により、さらなる上乗せもありうる。

「with国債」がコンセンサスに

 国債は増税賛成派のエコノミスト、学者から、「不健全財政の元凶」とみなされているが、コロナ・ショックを前に、増税派も「国債増発やむなし」に転じている。

 たとえば、財務省出身で増税派の小黒一正・法政大学教授は、一律の現金給付に賛成し、「基本的に筆者は財政再建派で、通常であれば、このような提言には賛成しないが、政府の緊急事態宣言(2020年4月7日から5月6日)の発令により、今回の問題はもはや国民全体に波及しており、複雑で情報の非対称性が大きく、緊急性を要するという点が、これまでと全く異なる。」と書いている(RIETI)。ショックから回復するまでは、「withコロナ」ならぬ「with国債」がコンセンサスになりつつあるようだ。

 国債大量発行には、インフレ、国債暴落といった心配事がつきまとう。財政、金融当局は、大量発行が動かしがたい現実となったことを前提に、こうした心配事に先手を打った策を講じてもらいたいものだ。日銀による直接引き受けの可能性も出てくるだろうか。

金本位制の離脱が破った「常識」

 と同時に、世界の経済が、国債に頼らざるを得なくなり、国債に対する考え方も少し変わってくるのかなと、思ったりもする。そう思うのは、大恐慌時の金本位制離脱の際のこんなエピソードを読んだことがあるからだ。

 大恐慌の時、ルーズベルト米大統領は、財務長官ら側近たちとの会議で、金本位制からの離脱を告げた。側近たちは大騒ぎになった。「三人の金融のプロは、ルーズベルト大統領がかくも重要なことをいとも簡単に言ったことにあきれ、二時間にわたってインフレの危険性と恐ろしさについて半狂乱になってルーズベルトに説いてきかせた。」
 
 そして、ダグラス予算局長は、会議からの帰路、のちに内務長官になるウォーバーグに、「これで西洋文明は終わった。」と嘆いた。(「アメリカ市場創世記」236ページ、ジョン・ブルックス著、パンローリング)。

 その後の経過は、離脱が正しい選択肢だったことを物語っている。後世の歴史から見れば、既存の常識が非常識に転じることがあるということだ。

 今回の経済危機に、国債という制度がなかりせば、世界はめちゃくちゃになっていたのではなかろうか。その意味では、国債は、コロナに立ち向かう経済の特効薬となった。ただ、劇薬との心配も消えない。次に求められるのは、暴れ馬を御す知恵だろうか。

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