10万円給付「オンライン申請で大混乱」のびっくりする原因

目次
1.マイナンバーカードは使うのにマイナンバーは使わない
2.使い道の乏しいマイナンバーカードに出番
3.オンライン申請が現場の足を引っ張る
4.法律がマイナンバーの使用を禁じている
5.不可解な官僚の選択
6.銀行口座を手作業で入力
7.四條畷市長の嘆き

 一律10万円の特別定額給付金をマイナンバーカードを使ってオンライン申請した。作業工程が減るから、給付までのスピードは速いし、自治体の作業も軽減できるだろうと考えたからだ。ところが、自治体の現場から聞こえてくる声は、まったく逆で、オンライン申請の方が作業に時間がかかるという。いったい、何のためのIT活用なのか。

1.マイナンバーカードは使うのにマイナンバーは使わない

 自治体現場を混乱させている原因は、結論を先に書くと、①今回のオンライン申請にはマイナンバーを使っていないこと、②マイナンバーと銀行口座がひも付けられていないの2点だ。

 ①は、「マイナンバーカードを使っているのに、マイナンバーを使ってないの?」と不思議に思うだろう。後述するように、マイナンバー法の制約があるからだが、霞が関官僚がもっと気を利かせていれば、こんなことにならなかったはずだ。新型コロナに対し、台湾の38歳IT担当大臣が水際だった対応を見せたニュースを聞いているから、日本の政府、官僚のデジタルに対する鈍さにため息をついてしまう。

2.使い道の乏しいマイナンバーカードに出番

 本論に入る前に、マイナンバーとマイナンバーカードについての知識を整理しておく。

 マイナンバーは、正式名称は個人番号で、国民全員に付けられた12ケタの個人識別番号。全国民に番号を記した紙の通知カードが送られている。

 一方、マイナンバーカードは、ICチップを埋め込んだプラスチックカード。希望者が自治体で手続きして交付を受ける。チップ内に電子的に個人を認証する機能(電子証明書)を搭載している(内閣府)。
 

 当方がカードを取得したきっかけは確定申告に使うためだった。国税庁の電子申告システム「e-Tax」を利用するにはカードが必要なのだ。申告するのに最初はかなり手間取ったが、慣れれば、自宅で申告を済ませられるのでとても重宝だ。

 カードは、身分証明書代わりやコンビニでの住民票取得などもできるが、ほかの用途では使ったことがない。行政が把握している個人情報をネットで確認できるので、試しにやってみたが使い勝手が非常に悪かった。

 恐らく、確定申告での利用法が一番ニーズが高いのではないか。源泉徴収が多い日本では当然利用する人も少なく、交付枚数は、今年1月で約1900万枚、普及率は14.9%にとどまっている(時事ドットコム)。
 
 2021年3月から健康保険証代わりに順次使えるようになるらしいが、全国の医療機関、薬局で使えるようになるのは2023年3月と、3年も先だ(内閣府)。
 
 カードを持っていてもあまり使い道がないが、今回の特別定額給付に利用できるというので試したわけだ。5月8日に20分ほどで申請できた。

3.オンライン申請が現場の足を引っ張る

 ここから本論に入る。以下の内容は、毎日新聞5月18日の記事と大阪の四條畷市長、東修平氏の現場報告に拠っている。
 

 まず、上記①のマイナンバーを使っていない点だが、毎日新聞の「オンライン申請を複雑化させている大きな要因の一つは、マイナンバーカードを使うのに「マイナンバー」自体は使わないことになっている点だ。」という記事を読んで、「あれ、そうだったっけ」と申請書控えを確認すると、確かにマイナンバーを記入する欄がない。

 マイナンバーがあれば、住所、氏名を確認できるのだが、オンライン申請書にはナンバーが書かれていないため、自治体は、申請書に記入された住所、氏名、生年月日などに誤りがないか住民基本台帳といちいち照合しなければならない。

 東京都品川区では、確認作業に2人1組で計8~10人をあてているが、処理できるのは週1000件程度。同区では、11日までにオンライン申請が9000件を超えているという。この作業を終えるだけで2カ月以上かかることになる。

 一方、郵送申請では、自治体が各世帯に申請書を送るが、それには、世帯主や世帯員があらかじめ印字されているから、この照合作業は不要だ。オンライン申請は作業軽減どころか作業の足を引っ張っているとは!

4.法律がマイナンバーの使用を禁じている

 しかし、1.マイナンバーを使わないならば、なぜ、申請にマイナンバーカードが必要なのか。2.なぜ、申請書にマイナンバーを記入させないのか、3.担当官庁の総務省は、現場の作業負担が重くなることを想定できなかったのか。4.なぜ、わざわざマイナンバーカードを使うオンライン申請をやったのか。すべて郵送送付でいいではないか。

 疑問が次々と湧き出てくるが、毎日新聞が、1.2.について答えてくれている。

 1.については、「申請にマイナンバーカードを使うのは、マイナンバーのためではなく、カードのICチップに内蔵されている署名用電子証明書で申請者が本人であることを証明するためだ」。

 署名用電子証明書とは、インターネットで送信された文書が改ざんされていないかどうかなどを確認する仕組みで、オンライン申請時には、政府のネットワーク(マイナポータル)に入るための4ケタ暗証番号とは別に、署名用電子証明書暗証番号の入力が求められる。

 この暗証番号は、番号の有効期限が切れたり、番号を忘れた市民らが自治体窓口に殺到し、もうひとつ混乱の原因を作った。

 2.については、「マイナンバーは、住民基本台帳の情報にひも付いている。申請時にマイナンバーを入力するようにすれば、住民基本台帳との照合は不要になるはずだ。しかし、マイナンバーの利用目的はマイナンバー法で定められており、総務省は「今回の事務は法に規定されていないので利用できない」(特別定額給付金室)と説明する。」だそうだ。

 マイナンバー法とは、正式名称は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」で、マイナンバーの利用法を定めたものだ。

 特定の個人を認証するには、指紋認証や顔認証もおなじみだが、これらに比べ、マイナンバーは、単なる番号だから人に知られる可能性が高い。その扱いに厳しい条件を付けるのは当然で、マイナンバー法は、利用用途として、社会保障、税及び災害対策の分野に限っている。これ以外で、マイナンバーを利用することは、一部の例外を除いて認められていない(マイナンバーハンドブック)。

5.不可解な官僚の選択

 しかし、今回の特別定額給付は、時限でいいから認められなかったのだろうか。利用を認めている項目は、マイナンバー法の「別表第一」に掲載されている。99項目がズラリと並んでいる。その中には、介護保険料の支給など、市町村長に認められている項目もある。

 そこに1項目、特別定額給付を時限で加えればいいだけだ。国会での法改正が必要だが、野党が反対するとは思えない。4月に国会議員歳費の2割削減を衆参1日で成立させているので(時事ドットコム)、スピード成立は可能だったはずだ。

 この点については、3.の疑問、つまり、担当官庁(総務省か内閣府)は、マイナンバーの利用なきオンライン申請は自治体を混乱させることを想定できなかったのか、に関連してくる。

 国民も、自治体も霞が関官僚は、マイナンバー制度のプロと期待している。プロならば、当然、想定できるだろうと思うのだが。

 しかし、想定できていれば、オンライン申請はやらずに、すべて郵送申請にしていたはずだ。そうしてないということは、やはり想定できなかったのだろう。

 あるいは、マイナンバー担当者と特別給付担当者がいて、両者の情報疎通がうまくいかなかったのだろうか。それとも、国民にあまり使われていないマイナンバーカードの存在価値を高めたくて、出番を作ったのだろうか。「なぜ、わざわざマイナンバーカードを使うオンライン申請をやったのか」という4.の疑問に対する答えになる。いずれにしても官僚のミスだ。マイナンバーカードの利用を無理やり押し込んだとすれば、ミスではなく故意になるだろう。

 善意に解釈すれば、混乱も想定できており、法改正に動く官僚もいた。しかし、何らかの圧力で妨げられた。どうなんだろう。経過の検証が必要ではなかろうか。

6.銀行口座を手作業で入力

 もうひとつの壁、②マイナンバーと銀行口座がひも付けられていないことも作業を遅らせている。この問題は、広く認識されているようで、自民党が議員立法で、個人の同意後にひも付けさせようという法案を今国会にも提出すると伝えられている(日経新聞)。

 それが遅れの原因になる経過は、東修平・四條畷市長が、「note」に投稿している「なぜ10万円給付に時間がかかるのか」を読むとわかる。

 それによると、四條畷市では、金融機関に申請者への給付金振り込みを依頼するには、住民基本台帳システムのサブシステムを構築しなければならず、時間がかかる。「システム事業者も4月末から直ちに構築作業に入って尽力してくれていましたが、市役所としてサブシステムがどのような仕様かが最終的に分かったのは、5月15日になってからでした」。システム事業者とはIBMや富士通のことだろう。

 さらに、住民台帳との照合に次ぎ、再び手作業が必要となる。誤りのないことが確認された申請書に記入された口座情報などを、「サブシステムに手入力していきます。これでようやく、電子データとして申請者情報を用意することができました」。

 マイナンバーが銀行口座とひも付けられていれば、この手作業は不要になる。もっとも、今回は、マイナンバーを使っていないから、ひも付けられていても宝の持ち腐れだけど。

7.四條畷市長の嘆き

 東市長は、オンライン申請するときに使う「マイナポータル」の雑な作りにも、もっともな苦言を呈している。当方も、申請時に感じた作りの「雑」さだ。

「マイナポータルでは、打ち間違いなどに対してエラーは出ず、何を書いても申請できる仕様となっています(名前に「あああ」と書いても次に進めます)。加えて、口座情報などの添付書類についても、どんな画像データでもアップロード可能です。さらには、同じ人が何度でも申請可能な仕様になっており、もっと言えば、世帯人員に何人でも書くことができます。」

 東市長は、最後に、「私たち市町村が、システムを相手に時間を浪費するのではなく、きめ細やかな住民への対応にもっと時間を割けるようになることを切に願い、本記事を終わります」と結んでいる。今回の混乱は、日本の中央行政システムのデジタル化の遅れをさらけ出したようだ。

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