ベーシックインカムには逆風の年に

世界的にも話題を呼んで昨年始まったカナダ・オンタリオ州でのベーシックインカムの実験が7月いっぱいで打ち切られた。4月にはフィンランドの実験が年内で終了し、延長しないことが決まっており、はずみがついた昨年とは対照的に、今年はベーシックインカムに逆風の年になっている。

カナダ・オンタリオ州の実験は、前政権の州首相キャサリン・ウィン氏が2017年7月に3年間の予定でスタートさせた(ビジネスインサイダー)。

支給額は、年収3万4000カナダドル(約292万円)以下の人は年間最大1万7000カナダドル(約146万円)、年収4万8000カナダドル(約412万円)以下のカップルは年間最大2万4000ドル(206万円)で、4000近い人が毎月、無条件でお金を受け取っていた。

この年収の最大額を見る限り、収入として低くない数字だが、支給対象は貧困層に限っていたのだろう。

たとえば、屋根から落ちて大けがして、仕事ができなくなっていた男性が「支給は鬱を解消してくれ、私はより社会的になった」と語り、職業訓練コースに通うようになったという(BUZZAP!)。

実験にかかるコストは約5000万ドル(約55億円)と見積もられていた。オンタリオ州は、3年間の実験で望ましい結果を得られれば、1420万人の州の住民に向けて制度を拡大していくつもりだったらしい。

しかし、実験を打ち切った新政権の子ども・コミュニティー・ソーシャルサービス大臣、リサ・マクラウド(Lisa Macleod)氏は、導入実験は費用がかかり過ぎで「オンタリオ州の家庭に対する施策に明らかになっていない」と言う(前掲の「ビジネスインサイダー」)。

4月には、欧州で初めてベーシックインカムを試験導入したフィンランドが終了期限の今年末で打ち切り、延長しないと決めた。

フィンランドの取り組みは、2017年1月にスタート、失職中の2000人に毎月一律560ユーロ(約7万4300円)が支給されてきた。

試験運用の制度設計に当たったオリ・カンガス教授は、「政府のやる気は消えうせつつある。(試験運用への)追加の資金拠出は拒否された」と語った(BBC)。

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かえって、貧困率が上がる?

BBCは、同じ記事で、経済協力開発機構(OECD)が、ベーシックインカムに不利な判定を下したことも伝えている。

「OECDの経済開発検討委員会(EDRC)は今年2月、英国が導入したような、複数の福祉給付を一本化する「ユニバーサル・クレジット」制度の方が、ベーシック・インカムよりも有効だとする調査報告書を発表した」

ベーシックインカムの実現性に疑問符が置かれる理由は、何と言っても財源だろう。EDRCも所得税を30%近く引き上げる必要があると指摘しているという。さらに、期待に反して、ベーシックインカムはかえって所得格差を広げ、フィンランドの貧困率は11.4%から14.1%に上昇してしまうそうだ。

後退気味のベーシックインカムだが、個人的にはよさそうに思える。今後も話題に取り上げていきたい。