クリスパー・キャス9に二つのハードル② EU規制

遺伝子書き換え技術、クリスパー・キャス9にとっての第二のハードルは、欧州連合(EU)の規制である。

遺伝子に手を加えた農作物に対する規制なので、本題に入る前に少し予備知識を蓄えておこう(この個所は、前回原稿でも紹介した小林雅一氏の「ゲノム編集とは何か」講談社新書に全面依拠している)。

動植物の遺伝子にまで手を加える技術としては、知っての通り、「遺伝子組み換え」がある。1970年代から使われていた。この技術を使って、除草剤耐性や殺虫性の「遺伝子組み換え作物(GMO)」が出回るようになった。

ただ、遺伝子組み換え技術は、精度が低く、1個の遺伝子を組み換えるために、科学者が1万回、時には100万回もの実験を繰り返したあげく、やっと1回だけ狙った通りに組み換えることができるという「偶然」「運」に頼ったような技術だった。

これに対し、クリスパーは、科学者が狙ったDNA上の遺伝子の構成分子をピンポイントで削除したり、書き換えることができる。あたかもワープロで文章を編集するように、DNAを自由自在に書き換えることが可能になった。

クリスパーは、あらゆる動物や植物のDNAを操作できるので、「肉量を大幅に増やした家畜や魚」「腐りにくい野菜」の開発が行われている。GMOに代わる「ゲノム編集作物」がいずれ登場することになるだろう(同書4~5㌻)。

ここからが本題だが、この「ゲノム編集作物」をGMO並みの厳しい規制の対象とするかどうかをEUの最高裁にあたる欧州司法裁判所は、審理していたが、7月に裁定が出た。

以下、毎日新聞の記事による。
訴訟はフランスの農業組合と反GMO団体などが起こした。ゲノム編集作物は「環境や人、動物の健康に重大な害を及ぼすリスクがある」として、GMOと同じ規制にすることをフランス政府に求めた。

裁判では、今年1月、独立した立場の法務官が、外来遺伝子を組み入れないゲノム編集作物は、GMO規制から除外されるという意見書を出した。「外来遺伝子」とは、GMOでは、別の作物の遺伝子と組み換える場合もあるので、これを外来遺伝子と呼んでいる。

予想を覆す裁定

法務官の意見書には拘束力はないが、裁定で覆されるのはまれだそうで、司法裁判所も同様の判断を下すものとみられていたようだ。

ところが、7月25日に示された裁定は、原則として従来の遺伝子組み換え作物(GMO)と同じ規制の対象とすべきだとしたのだ。

記事は、「世界でも厳しいEUのGMO規制から除外されることを望んでいた研究者やバイオ業界の間では、欧州が植物の品種改良の最前線から後退しかねないと落胆が広がっている」と伝えている。

EUでは、大豆(12品種=以下同)、トウモロコシ(30)、綿実(10)、菜種(4)、てん菜(1)の5品目・57品種のGMOが認可されている(2016年1月末時点)。

認可されるには、欧州食品安全機関(EFSA)が環境やヒトの健康、動物に対する安全性のリスクについて科学的な評価を行った上で、欧州委員会と食品連鎖・動物衛生常設委員会によって承認されるという手続きが必要だ。そして、認可されていない限り EU 域内で流通・販売することはできない(ジェトロブリュッセル事務所調査)。

ゲノム編集作物は、この手続きを一品、一品踏んで承認を得なければEU内では流通できない。対照的に米国は今年3月末、ゲノム編集作物の規制をしない方針を明確にした。オバマ政権はゲノム編集で作る農作物を規制する方針を示していたが、トランプ政権になって推進にかじを切ったと毎日新聞記事は伝えている。

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