AIは雇用を奪うのか そのインパクトはどの程度なのか② いや雇用は増える

前回ブログでは、程度の差こそあれ、AIが人の雇用を奪うという報告を紹介したが、今回は、雇用を増やすという報告について書きます。

まず、昨年9月17日にダボス会議の主催者である「世界経済フォーラム」が発表したレポートから。

そのレポートによると、いまは職場での総作業時間の71%を人間が、29%を機械が行っているが、2022年までに人間が58%に減り、機械が42%に増えると予測している。職場は大きく変わりそうだ。

ただ、仕事の全体数では、2022年までに7500万の仕事が機械にとって代わるが、1億3300万もの新しい仕事が生み出される、つまり、5800万の仕事が創出されると予測している(仕事の数は、ひとつひとつの仕事内容を指していると思われる。雇用者数ではない)。

機械が得意なのは、ルーティン化した作業で、データ入力事務、経理・支払い事務などのホワイトカラーの仕事が機械に代わっていく。逆にすべての産業で需要が大きいのは、データアナリスト、科学者、ソフトウェアやアプリケーションの開発者、eコマースやソーシャルメディアの専門家で、すべて理系である。

このあたりの職種が前回ブログで書いた、「職場が機械化、自動化されることによって新しい仕事が生まれる」という直接的な効果による雇用増だ。

ただ、理系ばかりではなく、営業やマーケティング、イノベーションマネージャー、カスタマーサービスのような、機械にはできない「ピープル・スキル」(人とうまく接するスキル)への需要も高まるという。

報告は、12の産業分野と20の新興経済圏(両者を合わせると世界のGDPの70%を占める)の300社以上のグローバル企業最高人事責任者や戦略を担当する経営陣を対象に行った調査がベースというから、企業のナマの声と言っていい。

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差し引きで雇用増

昨年7月には、コンサルティング会社のPwC(プライスウォーターハウスクーパース)が英国におけるAIと雇用の関係を分析したレポート(eccLab)を発表した。

レポートは、今後20年間で、「既存の700万件の雇用はAIに代替されるが、約720万件の雇用が新たに生み出されるため、およそ20万件の(新たな)雇用増加がもたらされる」と見通している。

PwCのチーフエコノミスト、John Hawksworth氏は次のように述べた。「蒸気エンジンやコンピュータといった画期的な新技術は、既存の雇用をある程度消滅させる。しかし、同時に大きな生産性向上をもたらす。新技術により価格が下がり、実質所得と支出水準が上昇し、追加労働者への需要が生み出されるのだ。PwCの分析結果はAI、ロボットおよび関連技術においても同じ影響が生じることを示した」(同上eccLab)

前回ブログで書いた、「AI導入→生産性向上→価格低下→実質所得向上→支出上昇→景気上昇→雇用増」の経路だ。

AIによるプラスの影響が最も期待されるのは、保健社会セクターだという。レポートによると、英国の同セクターでは既存の雇用の20%を占める約100万人の雇用増加が見込まれる。一方、製造部門の雇用数は約25%減少し、実質約70万人の雇用が失われると予測している。やはり、人と直接対面する仕事は需要が高まるとの見方だ。

どれだけ需要を増やせるかがカギ

新技術の登場による雇用の増加については、アリゾナ大学の経済学者、ジェームス・ベッセン氏が、消費者の需要にどのような影響を与えるのかが重要なポイントと論じている(Gigazine)。

ベッセン氏は、綿織物、粗鋼、自動車産業において、過去2世紀にわたる生産に関わる雇用の数を分析した結果の考察なのだが、かいつまんでいうと、ある産業で新技術が登場すると、価格は大きく下がりその製品への需要が大きく伸びるのでその産業の雇用が増える。しかし、次に現れる新技術の価格低下効果は最初ほどではないので、需要は伸びても最初ほど大きくはないということらしい。

見るべきところは「需要」で、「AIがもたらす雇用への影響を理解するためには、生産性の上昇がもたらす需要の変化を理解することが必要不可欠」(同上Gigazine)という。

ベッセン氏の論(を伝えた記事)は、雇用全体ではなく、個別の産業にスポットを当てた考察なので、「AIは雇用を奪うのか」という疑問の答えにはならないかもしれないが、新技術と需要増の相関を注目すべきという指摘は覚えておきたい。

ということで、AIは雇用を奪うどころか、増やすというレポートを紹介したが、世界経済フォーラムもPwCも最先端を走っている人たちだからAI推進派のような印象もある。偏見かも知れないが、多少は割り引いて受け取っておいた方がいいかもしれない。

「AIと雇用」についてもう1回書きます。「人の雇用を奪う」は多分、肝心なところが報道されていなかったようなのです。調べて、次回書きます。