国際緊急経済権限法にメキシコ白旗 米大統領が持つ制裁武器②

米国のメキシコに対する関税は見送られることになったが(日経新聞)、トランプ大統領が自在に関税攻撃を仕掛けることができるのは、国際緊急経済権限法(IEEPAアイーパ)という打ち出の小づちのような法律があるからだ。ただ、今回の対メキシコ関税に対しては、法の趣旨を逸脱しているという批判が出て、裁判に発展する可能性もあった。

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ファーウェイにも適用

IEEPAは、米企業が事実上ファーウェイの通信技術を利用することを禁じた5月15日の大統領令の根拠にもなった。この時は、商務省が150日以内に具体的な規制をまとめることになっており、発動はそれからだ。

ところが、今回の対メキシコ関税は、5月30日に発表、メキシコが不法移民対策を講じなければ6月10日から同国の全輸入品に5%の関税を課すというスピード発動を予定していた。

「民主主義制度損なった」で発動のケースも

IEEPAは1977年10月に施行されたが、これまでもよく使われている。1979年、カーター大統領は、イランの米国大使館員人質事件の際に、この法律を適用し、米国内のイラン関連資産をすべて凍結した。2004年にはシリア(テロリズムの支援の為、またその後の人権侵害の為)、▽2006年にはベラルーシ(民主主義的な制度弱体化の為)、▽2008年には北朝鮮(兵器利用可能な核分裂性物質の拡散の危険性の為)、▽2003年にはジンバブエ(民主主義制度を損なった為)、▽2016年にはロシア(ウクライナ クリミア地域へのロシア軍の派遣による等)に適用されている(ウィキベテア)。大使館人質への適用は合点が行くが、「民主主義制度を損なった」というのは、アメリカならではの理由だ。

IEEPAが適用されるのは、「米国の国家安全保障、外交政策または経済に対する異例かつ重大な脅威」があった場合だ。

大統領にどんな権限が与えられているかというと、
① 外国為替取引等の規制・禁止
② 金融関連取引の規制・禁止
③ 通貨・有価証券の輸出入規制
④ 外国・外国人の在米資産の没収
⑤ 外国等の資産やその取引に関して、取得、使用、売買、輸出入、輸送等の規制(安全保障貿易情報センター=CISTEC21~22㌻)

関税を持ち出すのは「濫用」

かなり幅広い権限だが、関税の項目は見当たらない。このため、トランプ大統領の対メキシコ関税の決定については疑問の声が出ていた。ジョージタウン大学のジェニファー・ヒルマン教授は「IEEPAの条文を読めば分かるが、大統領は金融取引を停止するために国家緊急事態を宣言することができる、というのが同法の趣旨だ」と語る。また、米商工会議所は提訴の可能性もあるとロイターは伝えていた。

今回は、メキシコが、同国南部のグアテマラとの国境付近への国家警備隊を配置する、メキシコ国境を越えて米に不法入国して保護申請した移民はメキシコ側で待機させる制度の履行拡大などの対策を打ち出したため関税を見送ることになった(同上日経新聞)。

結果だけを取り出せば、IEEPAがメキシコを動かし、トランプ大統領の要求を呑ませたことになる。米大統領には重宝な武器だろうが、対メキシコ交渉での成功に味をしめ、乱発されるようになったら厄介だ。

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