インドネシア首都移転 なぜ世界から巨額マネーが集まるのか

ジャカルタ市内

  インドネシアの野心的プロジェクト、首都移転計画が面白いことになっている。

 まだ、固まった話ではないが、アラブ首長国連邦(UAE)、ソフトバンクグループ(SBG)が兆円単位の巨額投資を計画している。さらに、中国を後ろ盾とするAIIB(アジアインフラ投資銀行)が融資に積極的で、米英独からも投資が入ってきそうだ。サウジアラビアも投資に関心を持ち始めた。首都移転費用330億ドルをはるかに上回る資金が集まりそうな様相だ。

 東南アジアで最大の経済規模と人口を抱えるインドネシアは、今後の成長が大いに期待できる。若くて元気な経済こそ海外からマネーが集まる一番大きな理由だろうが、さらにAIなどのデジタル経済、宗教上のつながりなどが背中を押しているらしい。

1.首都移転計画 2024年から移転開始

 インドネシアの首都移転は、昨年8月26日に、ジョコ大統領が概要を発表した。現在のジャカルタ(ジャワ島)からカリマンタン(ボルネオ島)の東カリマンタン州・バリクパパン近郊に移転する計画だ。2024年の移転開始を目指している。

 首都移転は、現在の首都、ジャカルタが置かれた地政学上の観点や、人口集中による都市機能への負担増加から、1945年の独立後、早い段階から繰り返し議論され、歴代大統領の悲願だった(ジェトロ)。

 ジャカルタは、地震や水害など災害にも弱い。湿地にあり、一部が毎年25センチずつ沈んでいる。ジャカルタの半分近くが海抜ゼロメートル地帯になってしまった(BBC)。

 ジョコ大統領は、経済の一極集中による格差是正も移転理由にあげている。ジャワ島に全人口の54%、GDPの58%が集中しているという。

2.移転費用は3兆6000億円

 移転先は、地震、津波、火山噴火などによる自然災害のリスクが少ない地であること、全国土の中央に位置すること、バリクパパンやサマリンダといった地方都市近郊にあり、インフラが比較的整っていること、18万ヘクタールの利用可能な用地があることなどをジョコ大統領は挙げた(ジェトロ)。

 移転費用は、330億ドル(約3兆6000億円)。インドネシアの名目GDPが1兆422億ドルだから3%の額に相当する。日本ならば16兆円(550兆円×3%)規模のプロジェクトだ。

 しかし、国庫支出は19%で、ほかは官民協力や民間投資で賄うことになっている(朝日新聞)。

3.ソフトバンク AIなどの実践の場か

 資金調達が課題と言われていたが、難なく集まりそうだ。
SFGが最大400億ドルを投資するというのだ。これだけで必要資金を満たし、超えてしまう。1月17日に、インドネシアのルフット・パンジャイタン調整相(海事・投資)が、金額を明らかにした。ルフット調整相は、ジョコ大統領の腹心と言われる重要人物だ。

 SFGの孫正義会長兼社長は10日、ジョコ大統領と会談しているが、会談後、ジャカルタで記者団に、「AIや最新技術を使った新たなスマートシティーについて(ジョコ氏らと)議論した」と語った(日経新聞)。

ソニーネットワークコミュニケーションズMANOMA

 ジョコ大統領は、デジタル経済の拡大を成長戦略の柱に据えており、新首都は、ハイテク最先端の街にするのだろう。一方のSBGとしては、AIなどのハイテク実践の場として首都建設に関わりたいのだろう。

 SBGは、AIを導入したスマートシティ化でインドネシア財閥企業と提携したり、ネット通販大手への追加出資、ライドシェア・配車事業への投資など同国のデジタル経済に積極的に投資している。

 こうした動きについて、「成長が確実視されるインドネシアで、SBGはネット上の『ヒト・モノ・カネ』の流れを確実に押さえつつある」と、東南アジア企業への投資に定評のあるジェネシア・ベンチャーズの鈴木隆宏・ゼネラルパートナーは指摘する(日経ビジネス)。

 首都移転への巨額投資もインドネシアへのデジタル事業戦略の一環なのだろう。ただ、具体的な投資額は決まってないといい、孫会長は外部には、「様々な可能性を議論している」と発言するにとどまっている。

【BizEnglish(ビズイングリッシュ)】

4.イスラム中道のUAEは、インドネシアに親近感

 石油と天然ガスの国、アラブ首長国連邦(UAE)もインドネシアへの投資に熱心だ。UAEは、イスラム教に厳格ではなく、中東では中道のイスラム教国家で、同じく中道のインドネシアとの結びつきを強めたいらしい。

 ジョコ大統領は、1月にUAEの首都アブダビを訪れ、エネルギー、物流、港湾建設、鉱業、農業などの分野に及ぶ総額229億ドルをUAEが投資する約束を取り付けた。

 さらに、首都建設資金を集めるインドネシアの政府系ファンド設立を支援し、UAEがファンドの「最大貢献者」になることを約束しているという。

 インドネシアのファクルル・ラジ宗教相は、UAEとの合意について、宗教の穏健化を促進させ、過激思想の危険認識を高めることにあると述べた(この個所は、ARAB NEWS=サウジアラビアの英字紙)。経済的な動機のほかに宗教的な動機もあるらしい。

5.AIIB総裁「喜んで支援を提供」

 そして、中国が最大の出資国であるAIIBだ。「(インドネシア)政府が我々の関与に関心を持っているのであれば、喜んで支援を提供する」と、AIIBの金立群総裁はフィナンシャル・タイムズ(FT)に語った

 AIIBではすでにインドネシアに9億4000万ドルを貸し付けているが、金総裁はAIIBが新首都建設に参画するかどうかにかかわらず「さらなる資金」として10億ドル超を提供する用意があると語った(フィナンシャル・タイムズ)。

 金額はSBGやUAEほど大きくはないが、中国は、自国が影響を及ぼす経済圏を拡大させたいから融資を拒む理由はないだろう。

6.中国に距離を置いた?

 インドネシアは、2024年の新首都オープンに向け、プロジェクトを具体化させるが、政府は1月17日に、首都移転計画を検討する審議会のメンバーを発表した。会長をUAEアブダビ首長国のムハンマド皇太子が務め、孫会長、英国のブレア元首相もメンバーに入った。

 ジョコ大統領は、インフラ整備を経済発展の原動力にしようと中国からの投資を促進させる傾向にある。政権1期目の2015年には、高速鉄道計画で、日本の受注が確実視されていたが、中国が逆転受注した。

 しかし、首都移転審議会の顔ぶれを見る限り、SBG、UAEが方向性を決めるように見える。

 国際的に著名な人物を審議会メンバーにすることで、海外からの投資を引き付けようとのインドネシア政府の狙いもあるらしい。米国、英国、ドイツの投資家からも移転計画への参加打診が舞い込んでいるようだ(The Jakarta Post)。

 また、サウジアラビアも投資に関心を持ち、投資を含めた様々な二国間協力を話し合う上級会合を設置するという(Tempo=インドネシアの雑誌)

 日本が首都移転を計画したら、これほど投資の希望が世界から集まるかといったら、集まらないだろう。米国ならどうか、ドイツならどうか。連想がふくらむ。

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